ものを語る

旭が誇る繊細な技術で創った
『他金属接合刃物』の開発モノがたり。 

旭が誇る、
繊細な技術で創った
『他金属接合刃物』の
開発モノがたり。

2020.07.13

銅や鋼など種類の違う金属を隙間なく貼り合わせる“接合技術”。

接合部がわからないほど綺麗に繋ぎ合わされた金属が、美しく輝くストライプを織りなします。旭独自の洗練された技術を駆使して、思わず見入ってしまうようなデザイン性の高い刃物ができあがりました。
日本の製造業を根絶やしにするわけにはいかない

金型事業と接合の揺るぎない技術で、50年間製造業の発展を支えてきた株式会社旭。“創造と挑戦”を合言葉とする会社の取締役・北澤勝さんはかねてより、製造業の未来をより明るいものにしたいという考えを持っていました。

「50年前から製造業が栄えてきたけれど、これから先どうかなっていうのは正直感じている」

製造業を根絶やしにするわけにはいかないという想いから、自慢の接合技術を磨きつつも、柱となる金型事業だけでなくIoT関連のシステム開発や海外事業の展開をしてきたのです。そんな中でも特に、若者に“ものづくり”の魅力を知ってもらいたい、受け継いでもらいたいという強い気持ちが沸き上がっていました。

 

「ものづくりの技術を若者に伝承したいという想いはあった。でもそれを実現できるような出会いがなかった。自分の会社をアピールするためには畑ちがいのところとも繋がる必要があると思ったけど、そんな機会もなかったしね」

そんな北澤さんの願いをかなえるべく、諏訪市の事業としてロフトワークが運営するSUWAデザインプロジェクトが動き出したのです。しかし、やっていることはなんとなく把握できるものの、最初はよくわからない怪しい人たちだと思ったという北澤さん…。 

「まあ市役所の人が連れてきてるから、変な人たちではないんだろうと(笑)。デザインプロジェクトの話をされたけど、説明聞いても全然わからなかった。応募〆切の前日まで全くもってやる気なかったよ。だけど、当時SUWAデザインプロジェクトを担当していた諏訪市役所の岩波さんに『申込書まだ出てませんよ?』って口説かれて。そうしたら社長に『1回だけ行ってこい。それで求めるものと違う場合はそれでやめてもいい』と言われて。それで行ったら…ハマっちゃった!」

プロジェクトのなかでは、旭が持っている技術を活かして新しいものづくりをすることを提案。説明を聞く中でも、北澤さんは次の言葉に胸を打たれて参加を決めたそう。

「『意見にたいして否定は禁止』『それをするために何をしたら良くなるかを前向きに考えていく会ですから』というロフトワーク・金指さんの言葉に、やろうと思った。面白い人たちだし、自分とマッチングするところがあるなって。そこで自分のやりたいことを見つけられればいいなとも思った」 

参加したことにただ満足するような会なら嫌だった、という北澤さん。ロフトワークのSUWAデザインプロジェクトが、自分たちでちゃんと物事を考えて前向きにやっていきましょうという姿勢だったことに、感銘を受けたと教えてくださいました。

旭が持つ洗練された接合技術を、外に伝えるには?

今回旭とタッグを組んだクリエイターは、プロダクトデザイナーでもあり地域財産を伝える仕事をしている、合同会社シーラカンス食堂の小林新也さん。北澤さんと小林さん、そしてロフトワークで何度も打ち合わせを重ねる中で選出された旭の魅力は、金型製造の際にも使われる“接合技術”でした。この技術は、素材を密着させながら、融点以下の温度条件で変形しない程度に圧力をかけ、接合面間で生じる拡散と呼ばれる結合現象を利用する方法。原子に熱と圧力を加えると触手のようなものが伸び、原子同士が手を繋ぐようにくっつくのです。旭のノウハウはこの分野で卓越していること、さらにこの技術なら対外的にも理解してもらいやすいことが背景にあり、北澤さんと小林さんの意見が一致しました。

「違う金属をくっつけるというのが接合技術。例えば、鉄と銅を貼り合わせるようなものなんですけど、(ウチのは)隙間がないんです!こういった技術を利用して何かものづくりができないかなって、ずっと思ってた。でも接合っていう技術をアピールするには、普通に使われているものを見せてもなかなか難しいんです」

どのような方法ならこの技術の素晴らしさが伝わるのか。接合技術の特質や、オーダーメイドで金属を接合したゴルフクラブ製作などの旭の実績もふまえて、KJ法でも様々なアイデアを考えました。

技術を伝えるための、多種多様なアイデアが集結!

接合部の見えないジェンガやパズルなどのゲームに始まり、異種金属を接合したデザインのナイフやおちょこなど…様々なアイデアが提案されました。

旭が持つIoT技術からのアイデア「諏訪姫の右手」
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見たことがない、新しい多属刃物
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金属の石鹸?メタルソープ
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熱を通しやすい金属とそうでない金属を組み合わせたグラスや湯呑み
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匠の技が光るリング
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金属から洋服を作るアイデア!
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ユニークなシーソーベンチ
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異種金属を繋ぎ合わせた刃物で、旭の技術を伝える

金属と金属の境目を触っても接合部がわからないほど綺麗に貼り合わせることのできるこの素晴らしい技術を、最大限に伝えたい。プロジェクトメンバー全員の熱い想いを具現化するため、アイデア出しやディスカッションを行いました。

「プロジェクトに参加していたシーラカンス食堂の小林さんが播州刃物の商品開発をしているから、これで刃物創ろうよって提案してくれて」

旭の技術を伝えるツールとして決定したのは、異種金属を接合した刃物。板状の鋼・銅・真鍮を旭の技術で接合し、デザイン性の高い刃物を創ることになりました。

技術を伝えることができる上に、材料の角を切り落とした時に大量に出る切粉という廃材を利用することもできる、画期的な案です。

「日本刀にある波紋のイメージで、あの模様を色付けできないかなというところから始まったんです。小林さんがデザインのデータをくれて、私が形状に切って、鍛冶屋さんに刃と柄をつけてもらって…。最初は波紋の波形が上手く出せなかったり、真鍮の接合が上手くいかなかったりといった苦労もあったのですが、それらを乗り越えてついに完成しました。ちなみに波形はあれから研究を重ねて、実現しそうなんです!」

こうして思わず目を奪われてしまうような、美しいナイフと穴子包丁ができあがりました。世界中の愛好家が欲しがりそうな、唯一無二の作品です。このプロジェクトをきっかけに旭内でも新しいことに挑戦する雰囲気が高まっており、もうすでに次のプロジェクトが動き出しているのだと、北澤さんが教えてくださいました。

今回は真っ直ぐな縞模様に落ち着きましたが、日本刀のようなナミナミを出す技術も見出したそう。次作の予定もあるようで、楽しみです。

 

若者に技術を伝承するため、プロデュース力を鍛えたい

自分の中の固定概念を崩すことができたと言う北澤さん。このプロジェクトできっかけをもらって、自分のできることがわかって、とても刺激的な起点になったとお話されていました。また、このプロジェクトで改めて“ものづくり”に対する愛情が確認できたと言います。 

「時間がない中で土日も来てやっていたんだけど、できた時の喜びを感じたり無心で刃物を創ったりしている中で、ふと気が付いて。『あ、俺好きなんだ。ものづくりが』って、思い出した。なんて楽しいんだって」 

夢中でものづくりに邁進する中で、苦しいことはなかったのか尋ねると「楽しいことがほとんどだったかな」とのこと。参加したメンバーとは今もお付き合いがあるそうです。

そんな北澤さんに、今後の野望を聞いてみました。

「こういった形のものづくりを、ワークショップ的なものから始めて自分なりに伝えていきたいなと思っていますね。それが会社の事業にも繋がれば、なおいいなと。自分の趣味だけで終わってもしょうがないからね」

ロジェクトを進める中で習得した、ゴールを定めて道筋を立てる、というステップ。北澤さんは、会社や自分の未来を見据える上でもそれが役に立ったと言います。

「自分に足りないのは、プロデュース力やディレクター的なところだと思っているので、そこらへんを少しでも自分のものにして、新しいものづくりをしていきたい。自分のゴールは『若者に技術を伝承する』こと。今そこに向かってやっと動き出せているかな」

業種は関係なく、先を見据えて考えているような人、何かに積極的に取り組んでる人たちに魅力を感じるという北澤さん。そういう面白い人たちを自分で発掘して、すでに進めているプロジェクトもあるそうです。

モノがたりに参加した
立役者からのコメントComment

株式会社旭 取締役 北澤勝

外部とのこういった取り組みは初めてでしたね。デザインプロジェクトがなければ、こういう風に接合で新しいことにチャレンジすることもありませんでした。そういう中で参加して、私自身本当に良かった。

これまでは廃棄していた廃材の活用方法を見つけたのも、会社としてとても有益な発見だったと思います。また、この活動を通して完成したプロダクトを社員に見せていると会社にも良い影響があると思います。これからも、ものづくりが新しい視点から生まれてくることを伝えていきたいです。

profile

1972年5月15日、長野県諏訪市生まれ。長野県岡谷工業高校を卒業後、日新工機株式会社(現・日本電産サンキョー)に5年勤めたのち、旭株式会社に入社。普段は営業、企画の打ち合わせから製作までを一貫して担当する。趣味はスポーツで、中学時代はサッカー、社会人になってからは野球をたしなむ。高校時代にはビジュアル系バンドを組んでいたことも。

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