酒蔵とガラスが紡ぐ、諏訪資源の新章
【酒ぬのや本金酒造】
酒蔵とガラスが紡ぐ、諏訪資源の新章
【酒ぬのや本金酒造】
地域と共に生きるガラス 酒蔵が見た課題と希望
諏訪の地で1756年から、250年以上にわたり酒造りを続けてきた歴史ある酒蔵です。
本日は、その酒蔵と切っても切り離せない存在である「酒瓶」、そしてその素材である“ガラス”に着目した新たな取り組みをご紹介します。
取り組みの名は、「地域と共に生きる諏訪資源からよいものつくり研究会」。
ガラスが持つ魅力と課題を、酒蔵はどのように未来へつなげようとしているのか。
酒ぬのや本金酒造9代目蔵元に嫁がれた宮坂ちとせさんに、その物語を伺いました。
本金は、家族を中心にで営む地域に根差した酒蔵であり、諏訪五蔵のひとつとして長く愛されてきました。
「一口飲むと心がほどけるような、優しく柔らかな味わい」。 そう称される酒づくりは、日常の何気ない食卓にそっと寄り添う味を目指して続けられています。
その魅力は地元だけに留まらず、韓国・アメリカ・台湾など海外にも広がっています。 筆者が訪問した前日には、香港からの熱心なファンが東京旅行の途中で家族を残し、どうしてもと本金の酒を求めて一人で諏訪まで足を運んだというエピソードもお聞きしました。
「最近では、純米大吟醸のような香りの高い日本酒よりも、『太一』のように食事に寄り添う酒が人気です。日本酒を通して本金のファンになってくれるのは本当にありがたい。」とちとせさんは語ります。
2023年(令和5年)、コロナ禍で打撃を受けた酒蔵を盛り上げるため、東京藝術大学生・信州諏訪ガラスの里・諏訪市・(株)AGCが連携し「諏訪五蔵プロジェクト」が実施されました。 その成果発表の場に参加した宮坂ちとせさんは、ガラスという身近な素材がもつ可能性と課題を知ることになります。
- ガラスは砂に高熱を加えると、砂の中に含まれるガラス成分だけが残りガラスになること
- 諏訪湖の浚渫で出た土砂は、再利用されず廃棄されていること
- ガラス生成に適した砂は世界的に争奪戦となっており、年々コストが上昇していること
身近にあるはずの“ガラス”にも、地域資源・環境負荷・産業構造など多くの課題がある。 その事実を知ったちとせさんは、酒造りを生業として、地域を愛する者として、持続可能なガラス資源活用に関わる決意を固めました。
時同じくして、本金では令和5年度に、諏訪産の酒米・霧ヶ峰の米水・諏訪発祥の酵母・諏訪出身の画家によるラベルデザインを施したALL諏訪産の酒「野良」を生み出しました。
野良を生み出した経験は、ちとせさんの想いをさらに深めます。
「酒瓶も諏訪で作ることができたら、諏訪で資源を循環させられるうえに、さらにワンランクアップのALL諏訪にこだわった商品ができる・・・。」
諏訪の直面する浚渫土砂の廃棄問題と同様に、酒蔵では、割れてしまった酒瓶は廃棄されてしまうという課題がありました。
汚れや傷、ラベル跡などの理由で再利用できない瓶の多くはリサイクルされずに埋め立てられてその生涯を終えます。
また、酒瓶自体の形状や色の多様化で分別は複雑になり、回収率は15年前より約20%も落ち込んでいるというデータもあるそうです。
「もともとガラスならまた溶かして酒瓶にすれば良いじゃないか。」と考える方もいるかと思います。しかし現実は厳しく、酒瓶を砕き、溶かし、再び酒瓶として成形するには、莫大な費用がかかります。
そこで、ちとせさんは発想を転換します。
酒瓶そのものを作るのではなく、割れた酒瓶と諏訪湖の砂という本来廃棄されてしまうものを使い、ガラスの課題と日本酒の魅力を伝える酒器を作ろうと思い立ちました。
それは、酒蔵が地域と未来に向けて踏み出した、新しい一歩でした。
本事業は「地域と共に生きる諏訪資源からよいものつくり研究会」と名付けられ、デザイナーや諏訪ガラスの里などの協力のもと、有名ガラス作家により2色各4種類の酒器が作成されました。
ひとつは、黒曜石を思わせる漆黒。もうひとつは、 諏訪の森を思わせる深い緑。
黒色の酒器は諏訪湖の浚渫により出た土砂を使用し、緑色は本金の緑色の酒瓶を再生したガラスが使われています。
黒は大地、緑は森林をイメージしており、諏訪湖を中心に広がる盆地そのものを表すような色になりました。
酒器に入れる量は 90cc。 1号の半分にあたるこの量は、ちとせさんが「酒を最もおいしく感じられる適量」を追求してたどり着いた数字です。
1杯目は舌を慣らす時間。2杯目で味わいが深まり、 3杯目でようやく本金のこだわりの味を感じる。
「本金の日本酒は、3杯目から“本気”の味が出るんです。」とちとせさんは語ります。
酒器の形はそれぞれ4種類作成しました。万人になじみやすいコップ型、香りの広がりを楽しめる平盃、冷酒を楽しむグラス風、香りを閉じ込めるワイングラス風など、4種類作成し、どれも本金のよい(良い、酔い、宵い)を感じられる逸品となりました。
諏訪湖の砂と割れた酒瓶から生まれた酒器は、完成後、さまざまな場所で披露されました。
最初の披露は地元飲食店。郷土料理と本金の日本酒を合わせ、酒器を実際に使いながら楽しむ会では、参加者が諏訪湖の砂がガラスになることに驚き、地域資源の可能性を語り合う場となりました。
続く諏訪を代表するホテルの美食会では、酒器は「特別な素材を使った酒器」として紹介され、予約段階で満席に。諏訪湖を眺めながら諏訪のガラスで酒を味わう体験は参加者の心をつかみ、購入希望や商品化後の採用を望む声まで寄せられました。
さらに地元の複合施設では、蕎麦・味噌・日本酒という諏訪の文化を酒器が束ねる体験型イベントを開催。
そして東京・両国駅での物産展では、2日間で2700名が来場。ガラスの課題や諏訪湖の砂の話に多くの人が耳を傾け、「時価でも欲しい」「販売されたら必ず買いたい」といった声が相次いだそうです。
諏訪湖の砂と酒瓶から生まれた小さな酒器は、地元からホテル、複合施設、そして東京まで旅をしながら、地域資源の新しい価値を静かに広げていきました。
酒器は各地で大きな反響を呼び、数多くの購入希望が寄せられました。 しかし現在は、量産に必要な設備や費用に課題があり、まだ一般販売には至っていません。
それでも、諏訪の酒蔵をはじめ、地域資源の循環を広げていくためにも、この酒器をもっと多くの人の手に届けたい——ちとせさんはそう願っています。
諏訪湖の砂と酒瓶から生まれた特別な逸品を、自分の店舗で使ってみたい、導入を検討したいという方がいらっしゃれば、ぜひ本金酒造までへご連絡ください。

モノがたりに参加した
立役者からのコメントComment
酒ぬのや本金酒造 宮坂ちとせ
アイドルか、はたまた俳優の推しが・・・?と思いましたが、吹奏楽に所属してトロンボーンを担当している娘さんを絶賛推し活中とのことで、大変心温まるハートフルストーリーでした。
英会話は、お店でのインバウンド対応増加の延長線で、勉強をしているとのことです。向上心が素晴らしいですね。
大の日本酒好きちとせさん直伝!本金のおススメ酒をお聞きしました。
profile
よくお酒を嗜む人→【本金 樋の口】:通に人気の本醸造生原酒。旨味の中にもキレがある味わい。
お酒は控えめな人→【 本金 Smooth】: 諏訪産の美山錦を使用した純米酒。甘さとりんごの酸味がクセになる飲み心地。
ぜひ諏訪に足を運んだ際は、本金酒造で日本酒をお楽しみください。
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