熟練工と自家製マシンが
作り出す超微細ばね
驚きと美しさにこだわったアウトプットとは
熟練工と自家製マシンが
作り出す超微細ばね
驚きと美しさにこだわった
アウトプットとは
超微細ばねを作る高度な技術を面白くアピールするプロダクト
株式会社ミクロ発條は、「ばね・ぜんまい」を意味する「発條」という名前の通り、ばねを作っている会社です。特に微細ばねを得意としているミクロ発條は、主に携帯電話や電子部品、半導体検査機、ボールペンなどに使われるばねを製造しています。
中でもボールペン用のばねは、ペン先のインクが出る部分に組み込まれているものすごく小さなもの。実はそのばねを初めて作ったのは、ミクロ発條なのです。ここまで微細なばねを作れる会社は数えるほどしかないということもあって、このばねは国内トップのシェア率、世界でも高く評価されています。
ミクロ発條の小島さんは、創業者である祖父の嘉三さんから代々会社を受け継ぎ、歴代4人目の代表取締役社長。SUWAデザインプロジェクトは小島さんと、工機部のグループ長・小林さんが中心となって進めます。
今回ミクロ発條とコラボするのは、“クリエイティブの力を使って、クライアントの思想や業務内容を体感できるコミュニケーションデザイン”をテーマに、さまざまな空間や家具・什器のデザイン、映像制作などを手がけている「有限会社バッタ☆ネイション」の岩沢仁さん。ミクロ発條の技術を知るため、早速工場へと見学に訪れました。
日本の工場には約300台のマシンがあり、それぞれの機械が、様々な大きさ、色、用途のバネを製造します。海外の工場も含めると約600台ものマシンが稼動しています。さらに、バネ加工機のほとんどは自社開発のオリジナルマシン。機械化する工程を増やすことで、24時間の無人稼動を実現したそう。量産可能なもっとも細いバネは外径0.06mm。人間の髪の毛の外径が約0.08㎜といえば、その細さが伝わるでしょうか。
バネは基本的に製品の内部にあるので、私たちの目に触れることは少ないですが、製品の稼動に欠かせない大事な部品です。そんな“縁の下の力持ち”的な存在であるばねをつくり続け、私たちの暮らしを支えているのが、ミクロ発條のオリジナルマシンとそれを扱う熟練工なのです。
ミクロ発條の小島さんはかねてより、微細ばねの魅力を伝えたいという想いを持っていました。
「ものすごく小さなばねを驚きがある形で、しかも綺麗に見せたい。イメージでいうと“標本”とか“宝飾品の展示”に近いもの」
そんな想いから、岩沢さんとディスカッションをしていく中で絞られた案はふたつ。小さなばねを目盛りに使った「バネばかり」と、小さなばねの製造過程を見せるアート作品「ゾートロープ」です。ゾートロープとは、静止画を素早く入れ替えてまるで動いて見えるようにする、丸い筒状の回転のぞき絵のこと。しかし試作をする中で、岩沢さんはミクロ発條の作ったバネばかりのクオリティに驚嘆。今回はバネばかりをアウトプットとしてプロジェクトを進めることに決定しました。
小さいばねの魅力を“ものさし”としてアウトプットすることで、完成したバネばかり。一見するとただのものさしですが、手にとってよく目を凝らしてみると、目盛りの部分がすべて超微細バネで出来ているのです!
「ギャップが大きければ大きいほど人の印象には強く残るので、これはものすごく気に入ってます。ものさしの目盛りの溝にひとつひとつ微細ばねを埋め込んでいく…という、かなり細かい作業なので製作は大変でしたけど、結果的に形になってよかったです」
そうお話するのは代表取締役社長の小島さん。商品化こそまだですが、商談の場では早速バネばかりを使っているそうです。
「微細バネってお客さんのところに持参して見せるのって結構大変なんですよ。でも、バネばかりを胸ポケットからサッと取り出して“これ全部バネなんです”といってルーペで見せると、すごく伝わりやすいんです」
「デザイナーさんと仕事をすることもありますけど、広告や製品カタログを作るときぐらいですね。製品の良さやスペックを自社視点で考えて、それをデザイナーさんに形にしてもらうことがほとんどです。今回は発想の段階から岩沢さんにお任せしたので、自分たちでは絶対に出てこないアイデアがたくさん出てきた。そこが驚きでした。僕らは工業系だから、どうしても“バネを作る技術をどう見せるか?”という方向に考えが向かうのですが、岩沢さんの場合“バネを面白く見せるにはどうしたらいいか?”というところからスタートする」
自分たちと全く違う発想を持つ、デザイナーとの共創が楽しかったという小島さん。技術とアイデアが出会って生まれたバネばかりのプロジェクトは、商品化をゴールにこれからも進みます。
「今後、これをどうやってプロダクトにしていくかが僕らの目指すゴールなので、この先はものさし製造に専門性を持ったメーカーさんと組むとかプロジェクトチームの編成も考えながら、本当の完成に向けて進んでいきたいと思います」
小島さんは、未来に向けた展望をそう語ってくださいました。
モノがたりに参加した
立役者からのコメントComment
株式会社ミクロ発條 代表取締役社長 小島拓也
そうすれば楽しいし相対的な技術も上がって、期待されている以上のものが提供できる。そういう想いもあって、SUWAデザインプロジェクトに参加しました。バネのような小さな部品、要は脇役を主役にした何かを、まったくのゼロから生み出すわけですから、難しかったです。
この試作がもう少し早い段階で完成していれば、もっといろんなバリエーションのバネばかりができたかなとは思うので、それは今後の伸びしろとして、どんどん進めていきたいと思います」
profile
株式会社ミクロ発條・代表取締役社長。1972年1月、長野県諏訪市生まれ。高校時代にアメリカへ1年間の留学経験を経て、東海大学工学部電気工学科に入学。大学時代は1年休学し、父のいるマレーシア工場の立上げを手伝う。それがきっかけとなり、大学卒業後の1995年にミクロ発條に就職。1997年代表取締役副社長、2010年代表取締役社長に就任。趣味はトライアスロン。
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