ものを語る

諏訪大明神の化身をデザイン。「龍神プロジェクト」開発物語 
アトリエ小平 小平 陽子さん インタビュー(2020/7/30)

諏訪大明神の化身をデザイン。「龍神プロジェクト」開発物語 
アトリエ小平 小平 陽子さん インタビュー(2020/7/30)

2020.08.27

日本最大級の龍神である「諏訪大明神」を広めたい

諏訪市には、日本最古の神社の一つであり全国に2万社以上もあるという諏訪神社の総本山
として、諏訪大社が地元の人に親しまれる存在となっています。
にもかかわらず、その諏訪大社のシンボルが龍神であり、諏訪の龍神様には数々の神話が伝
えられている事は、地元の人にほとんど知られていません。
「それはなぜだろう?」
そこで、「諏訪の龍神を地元に」という思いで始まった「諏訪龍神プロジェクト」。
今回は、プロジェクトにデザイナーとして参画した、アトリエ小平の小平陽子代表に、開発
にあたっての物語をお聞きしました。

まず、龍神プロジェクトへ参加された理由についてお教えください

今にも動き出しそうな諏訪の「龍」神さま

諏訪市役所の産業連携推進室担当の方が、今回のプロジェクトの企画者である㈱テンホウフーズの大石社長さんの思いと、そして私のデザインとを繋いでくれたのがきっかけです。

大石さんは諏訪の龍神様のことをよく調べていらして、「まずは地域の子供たちに、龍というシンボルを通して諏訪の文化や歴史の奥深さを知って貰い、自分たちの地元に誇りを持って欲しい。そして、行く行くは観光へも繋げていけたら」と、強い思いを持っていらしたとのこと。その思いの第一歩として、「龍の絵本を描ける人がいないものか」と、先ほどの産業連携推進室への相談も含め探していたそうです。

一方の私ですが、その頃ちょうど、同じく諏訪市役所産業連携推進室の事業として「諏訪ソノリティカード」の制作に携わっていた所でした。

両者とも偶然、時を同じくして産業連携推進室に関わりがあったんですね。そんなタイミングもあって、担当の方が両者を繋いでくれたんです。

それに、絵本作りについても、地域の文化を子供に伝える紙芝居を制作していたこともあり、本来やりたかったことでもあります。なので喜んで参加しました

とはいえ、当初は諏訪の龍神について知る機会もなかったですし、背景となる神話や古代の歴史について馴染みもありませんでした。そこで、まずは地域の専門家の方を頼ることにしました。

諏訪市図書館司書で児童文学の研究をされている河西皆子さんです。

河西さんは、私たちの依頼に合わせ多くの文献資料を元にして、児童向けになるよう内容を忠実に再現しながら、多くの龍の昔話を制作してくださったんです。

その昔話の中から、さらに私たち制作メンバーで4話を厳選し、そこから物語のイメージとなる姿や形を創り始め、プロジェクトはスタートしました。

デザインする上で苦労されたのは、どのような点でしたか?

神話の時代だけでなく、古代や鎌倉時代も描きました

特に苦労したのは、文献上に出てくる神様、服装やアイテムに対する歴史的理解と時代考証ですね。

最初は、「神話だから、自由に楽しく創作を」と思ったのですが、古代の文献に記録された内容が、様々な形で現在の社会に残っていて、私たちの今ある暮らしや現在の祭りの中とも繋がっているんですよね。

古い歴史上の出来事でも現在とリンクしているのですから、その繋がりを大事にしなければいけません。その時代の正確さをこの絵本では大切にしつつ、創作していこうと方向性を変えました。

それに、歴史上の出来事にしても、物語の中に出てくる出雲大社の神殿、それから元寇の船の形なども、どこまで忠実に再現できるか、調べなければ正確に描くことはできないとも思いました。

そこで、神話や古代の関連書を読んだり、歴史背景を知る必要が出てきたんですが、その内容の濃さに「これは大変なことになってしまったな」とも思いました。

ですが、龍神様について追及する面白さが勝り、多くの資料を調べていったんです。

ここでも助けて頂いたのは、多分野に渡る地域の専門家の皆さん方でした。

神道は、八剱神社の宮坂清宮司さん、仏教からは仏法紹隆寺の宥全住職さん、ミシャグジ(土地神様)はスワミニズム編集長の石埜穂高さんに諏訪市博物館学芸員の嶋田さん。

考証から監修まで含め、本当に多くの方にお世話になりました。

龍の「指の数」は何本?

諏訪の龍神様です。迫力に圧倒されてしまいます

それから逆に、龍神様のお姿については、自由に楽しく創作する部分でした。

例えばですが、ポピュラーな龍について想像してみてください。その「龍の指の数」って何本だと思いますか?咄嗟には出てこないですよね?

中国では本数に意味があるそうですが、制作メンバーで相談して、「諏訪の龍」の指を何本にしたのか?

答えは後ほどお話ししますね。

他にも、龍の顔や、身体の形、細部はどうなっているでしょうか?それに、龍は西洋だとドラゴンですし、お隣の中国でも昔から文献等で存在しています。日本でも、古来は蛇だったとも言われますし、両者が「龍蛇神(りゅうじゃしん)」として一体化していたケースもあります。そうした様々なイメージに沿いながら、キャラクターも描いていきました。

キャラクター以外で工夫された点は?

デザインする上での様々な資料を読んだ小平さん

巻末には、神話の世界と関係する龍神スポットのマップや歴史年表を掲載し、理解しやすいように工夫もしました。

絵本と言うと子供向けなイメージですが、大人にとっても、古代と現在がどのように関係するか、マップや年表と照らし合わせながら楽しめることもできると思います。

もちろん、文献上では、当時の社会情勢や政治争いの影響で、史実のままではなく作られたり誇張されたりの部分もあったかと思いますが、それを含め、歴史上の出来事と当時の諏訪の人の思いを、絵本を通じてリアルに想像することができます。

他にも、神社仏閣のお参り作法も可愛らしく図説しましたので、諏訪の歴史的スポットを再発見しながら訪ねるきっかけつくりにしていただけたらと思います。

特に印象に残っているシーンなどはありますか?

こうして見ると、諏訪湖にかかる雲も龍のようです 

そうですね、色々な作品の中でも、「甲賀三郎伝説」には御頭祭(おんとうさい)や薙鎌等の元になる話が出てきますが、これらは諏訪大社に今でも縁のあるアイテムとして残っているんです。

それから、「泉小太郎伝説」も、諏訪の美しさがわかりやすく伝わる内容だと感じます。

以前放映されていたのテレビ番組だった「まんが日本昔ばなし」のオープニングに、男の子を乗せた大きな龍が出てくるシーンを覚えている方もいると思います。あの龍ですが、実は諏訪大明神の化身の龍と言われています。凄いですよね。

諏訪の自然には、龍を思わせる要素が多いと感じます。

現代社会に生きる自分の目からでも、雨上がりに出た雲が「まるで龍にように」見えたこともあるんです。となると、昔の人には尚更そう見えたでしょうね。諏訪湖もあるし、雨上がりには雲海も出ます。自然信仰に近い、とも感じます。

龍神プロジェクトですが、今後どのように考えていますか?

「龍神」が誕生した仕事場も拝見しました

中世の日本(鎌倉時代末期から室町時代)で、諏訪円忠(すわえんちゅう)という方がいました。歴史上だと、その円忠さんが京都中枢で活躍し、日本各地に諏訪信仰を普及させようと「諏訪大明神絵詞(すわだいみょうじんえことば)」という絵巻物を完成させたと記録に残っています。いわば「諏訪がんばれ」キャンペーンをしたんですね。その円忠さんのように、現代版の「諏訪がんばれ」に活用したいなと思っています。

また、先ほどもお話ししましたが、大人でも興味を持てる内容になっていますので、幅広い世代に読んで欲しいですね。そして、郷土愛と地域への誇りを持って欲しいです。諏訪の人だと、自分の住む土地柄を他地域の人に説明する場合、どうしても「いやー、田舎なので何もないですよ」となる傾向もあるかと思います。ですが、「実はこんな凄いです」と、知ってもらいたい。主人にも作品を読んでもらったんですが、「へえー?知らなかった。面白い!」と評価してくれました。地域の身近な話なのに、知らない人が多いんですよね。

龍は色々なグッズになり得ると思いますので、諏訪を外部にPRするためにも、今後は龍のキャラクターをどんどん使って欲しいですね。

それでは、先ほどの問題だった「龍の指」は何本にされたんでしょう?

(小平さんから)それでは、最後に先ほどの答えについてです。 「諏訪の龍の指の数」ですが、何本にしたか?答えは「4本」になります。諏訪ですから、御柱の柱の数である「4」に合わせて、諏訪らしい龍神さまにしたんです。

たしかに、諏訪の龍神様の指は「4本」です

なるほど!。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました

完成した「絵本」。「龍神様」の鱗がキラキラ光る印刷技術を活用した逸品です

モノがたりに参加した
立役者からのコメントComment

㈱テンホウ・フーズ 大石社長さん

この「龍神プロジェクト」ですが、日本全体が人口減少社会を迎える中で、地域に住む人を増やしたいという気持ちから始めました。

諏訪地域の伝承は、地元の人々にもよく知られていません。自分も、県外の人に教えてもらって初めて知ったくらいです。

今回のプロジェクトをこうして形にすることができましたが、これは、そのためのスタートに過ぎないと思っています。龍神がグッズになったり、さらには観光資源になることで、諏訪地域の色々な人たちにも、町おこしをする「きっかけ」として広まって欲しいですね。

profile

この「龍神プロジェクト」は、「諏訪市産業連携事業補助金」を活用して実施されました。補助金を受けるには様々な条件がありますが、事業の申請をする際に審査委員の認定を受ける必要があります。大石社長さんは、プロジェクトを実現するため、関係者を代表して計画や地域にかける思いをプレゼンテーションされました(写真は、審査委員会で説明する社長さんです)。

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