ものを語る

七宝職人が挑む新たなものづくり

七宝職人が挑む新たなものづくり

2024.03.28

伝統的な七宝技術が持つあらゆる可能性を追求して

七宝焼専門店である(有)赤羽七宝舎(諏訪市中洲神宮寺)。今年度2回目のSUWAプレミアム認定商品審査会を経て、同社が作り出す「総銀張七宝酒杯」と「『じくじ石』アロマストーンペンダント」の2つが新たに認定商品に加わりました。
七宝に携わり35年の職人でもある同社2代目社長の赤羽 洋一 氏に、その開発ストーリーを伺いました。
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七宝焼とともに

当社は、初代社長である私の父が1949年(昭和24年)に創業したのが始まりです。1988年(昭和63年)10月、亡くなった父の後を継いで2代目社長に就任したのが私になりますが、七宝焼専門店として、七宝焼を用いた飾り額や飾り皿を始めとする美術工芸品や各種記念品などの製造・販売を行う一方で、“ものづくりの楽しさ”を広めるべく工芸ワークショップを行なっています。

ところで皆さんは“七宝焼”をご存知でしょうか?
七宝焼は伝統工芸技法の1つで、銅や銀などの素地にガラス質の釉薬(ゆうやく=七宝用の絵の具)を焼き付けて装飾する技法及びその製品のことです。その名称は、仏教の説話に出てくる七つの宝物(仏典により多少の違いはありますが)“金・銀・瑠璃・しゃこ・めのう・はり・赤珠”を散りばめたような美しい出来栄えに由来すると伝えられています。

七宝焼の歴史は古くからありますが、現在日本において作られている近代七宝焼は、1833年(江戸時代後期)、尾張(現在の愛知県西部)の陶芸家 梶 常吉(かじ つねきち)により作り方が発見されたことが始まりとされ、以降、尾張地方は日本の七宝製造の中心地となり発展してきました。そして、ここ諏訪市では、1949年(昭和24年)に当時の中洲農協が冬季農閑期事業の一環として、愛知県名古屋市からその技術を導入したのが始まりと言われています。

身近なものでは校章や社章などのバッジ、自動車のエンブレムにも使われているので、皆さんも一度は目にされているかと思います。しかし、伝統工芸技法とは言え、漆器や陶芸に比べると認知度は低く、馴染みが薄いのが現実ではないでしょうか。そうした状況だからこそ、認知度を高めたい。七宝焼を活かした新たな商品を生み出し、皆さんの生活の中に“七宝の持つ魅力”を届けられないだろうかと新たに酒杯とペンダント作りに挑戦し、今回SUWAプレミアムの認定にいたったのです。

赤羽社長に会社や七宝焼のこと、認定商品の開発ストーリーについてお話しいただきました。
赤羽社長に会社や七宝焼のこと、認定商品の開発ストーリーについてお話しいただきました。
総銀張七宝酒杯 ~1枚の銅板から生み出された七宝工芸品~
認定商品に加わった「総銀張七宝酒杯」。容量はおおよそ90mlと40mlの2種類あります。
認定商品に加わった「総銀張七宝酒杯」。容量はおおよそ90mlと40mlの2種類あります。
春(桜の薄桃色)、夏(諏訪湖面の紺色)、秋(稔りの金色)、冬(結氷した諏訪湖面の薄灰色)、そして、雅やかさを表した薄青緑色の全5色あります。
春(桜の薄桃色)、夏(諏訪湖面の紺色)、秋(稔りの金色)、冬(結氷した諏訪湖面の薄灰色)、そして、雅やかさを表した薄青緑色の全5色あります。

1つ目の商品は、総銀張七宝酒杯です。こちらは1枚の銅板から酒杯の器を成形し、七宝焼を施した手作りの工芸品です。

私自身、七宝焼に携わり今や35年が経ちました。当社は下請けの商品作りを主な事業としていますが、長くものづくりに携わる中で原点に立ち返るべく、自社のオリジナル商品を生み出したいと以前より考えていました。そして、令和3年のこと。“酒蔵の多い地元諏訪”に見合うものづくりに挑戦しようと、七宝焼を活かした酒杯作りに立ち上がりました。
この取り組みは、無から生み出すことへの挑戦でもあります。既に出来上がった酒杯の型を仕入れて、そこに七宝焼を施すことも考えましたが、1枚の銅板を用い、自ら器を成形することからスタートしようとこだわったのです。そのため、当時鍛金(たんきん=熱した金属をハンマーで叩くことで曲げて成形する技術)を学び習得することから始めました。

酒杯を作る工程は、大別して
①1枚の銅板を鍛金により、酒杯の器に成形する(焼きなまして(=熱して冷まして)は叩く、焼きなましては叩くを7~8回ほど繰り返す)。
②器の表と内面全体に銀箔を貼り付け、焼き付ける。
③七宝絵の具で彩色して焼成する。この工程を3回ほど繰り返し、色に深みを出す。
といった流れになります。

酒杯のコンセプトとして、手にした時の質感や持ちやすさ(手に馴染みやすい、しっくりくる)、重くもなく軽すぎず、使いやすさにこだわったので、板状1枚の銅から目指すべき形に整えることが最も困難でした。成形作業の中で銅板を木型(木の器)や金型(当てがね)に当ててハンマーで叩くわけですが、木型や金型そのもののオリジナルを作るなど細部にもこだわりながら、鍛金を繰り返したことを覚えています。
銀箔は器の表はもちろん、内面にも貼りますが、内側のカーブに合わせて貼るには技術を要します。
酒杯の色は全5色。春(桜の薄桃色)、夏(諏訪湖面の紺色)、秋(稔りの金色)、冬(結氷した諏訪湖面の薄灰色)、そして、雅やかさを表した薄青緑色とし、内面は表面よりトーンを落ち着かせました。四季折々などを連想させるこの色も、何色も試しようやく辿り着いたのです。
こうして完成するまでに2年半。長い年月を要しましたが、皆さんにお届けできる渾身の逸品を生み出すことができました。

なお、七宝はガラス質ゆえ、熱いものには適しませんが、お酒を飲む場合は冷酒やぬる燗がおすすめです。工芸品のため、常用というよりは観賞用としてお楽しみいただき、そして、大切なひとときに、特別な日に使ってみてはいかがでしょうか。

このような1枚の銅板から酒杯の器を成形します。
このような1枚の銅板から酒杯の器を成形します。
成形作業の第1段階で使う木型。今回の酒杯に合わせて作ったオリジナルです。
成形作業の第1段階で使う木型。今回の酒杯に合わせて作ったオリジナルです。
手にしている物と手前の万力に挟まれている物が、成形作業の第2段階で使う金型(当てがね)。こちらもオリジナルです。
手にしている物と手前の万力に挟まれている物が、成形作業の第2段階で使う金型(当てがね)。こちらもオリジナルです。
『じぐじ石』アロマストーンペンダント ~地元産出の稀石“じぐじ石”の新たな価値~
認定商品に加わった「『じくじ石』アロマストーンペンダント」。
認定商品に加わった「『じくじ石』アロマストーンペンダント」。
形は円柱、四角柱、六角柱の3種類(各サイズおおよそ直径10mm×高さ30mm)。シルバー部分に七宝焼が施されています(緑色、紺色、薄オレンジ色)。香水やアロマオイルをしみ込ませると、石は赤褐色に変わります。
形は円柱、四角柱、六角柱の3種類(各サイズおおよそ直径10mm×高さ30mm)。シルバー部分に七宝焼が施されています(緑色、紺色、薄オレンジ色)。香水やアロマオイルをしみ込ませると、石は赤褐色に変わります。

2つ目の商品は、『じぐじ石』アロマストーンペンダントです。こちらは地元諏訪市中洲神宮寺地区から産出された稀石“じくじ石”に、当社のシルバー加工技術と七宝技術を用いて作り上げたペンダントです。

ここ神宮寺地区には、上社周辺まちづくり協議会という地域団体がありますが、同団体ではじぐじ石をアロマストーンに活用した“Jiguji アロマストーンシリーズ”を商品化し、令和4年度にSUWAプレミアムの認定を受けています。
※“じぐじ石”や“Jiguji アロマストーンシリーズ”に関する記事はこちら「地元の宝 神宮寺(じぐじ)石を使ったまちおこし」をご覧ください。

そして、令和5年の春過ぎのこと。じぐじ石の更なる活用方法として、七宝焼とのコラボレーションができないかと考えたのが、今回の商品作りのきっかけでした。
ペンダントは、おおよそ直径10mm×高さ30mmの円柱、四角柱、六角柱に加工されたじぐじ石にシルバーを巻き付け、さらに七宝焼で装飾しています。装飾にはシルバーや七宝を高温で焼き付けるわけですが、熱するとボロボロになってしまう石もあることから、じぐじ石は熱に耐えうるのかが懸念されました。しかし、いざ試してみると耐熱性があり、焼き付けにも適した相性の良い素材であることが分かりました。
じぐじ石は地元石材店((有)石栁石材店)で加工してもらいそれを仕入れ、そこに当社でさらに形状に手を加え、シルバーや七宝焼の装飾を施していったのです。私自身、七宝技術だけではなくシルバー加工技術も習得していたこともあり、ペンダントはおおよそ半年で完成することができました。

なお、ペンダントそのものは、見た目は派手でもなく地味でもありませんので、男女問わず使うことができます。じぐじ石の吸水性や保水力といった特性から長時間香りを保てるため、お気に入りの香水やアロマオイルをしみ込ませ、癒されてみてはいかがでしょうか。

七宝焼の可能性

ここまで酒杯、ペンダントと2つの商品をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

当社は、七宝焼の持つあらゆる可能性を追求するべく、あらゆる分野・企業の方々との交流を通じた新商品の研究・開発にも力を入れていきたいと考えています。それは、美術工芸品を作る伝統技術として七宝焼を引き継いでいくだけではなく、既存の枠にとらわれない“新たな価値”を生み出したいとの想いがあるからです。今回SUWAプレミアムに認定された2つの商品も、まさしく七宝焼の持つ可能性を追求する挑戦でした。

総銀張七宝酒杯は、“酒蔵の多い地元諏訪”に見合うものづくりへの挑戦でしたが、それは当社独自の活動です。伝統産業であり地域資源である酒蔵は、市内に5つあります。ご縁に恵まれればということもありますが、酒蔵の方々と実際にコラボレーションをし、更なる新商品開発にも挑戦したい、そして、酒杯作りを極めたいと考えています。
『じぐじ石』アロマストーンペンダントは、地元から声を掛けていただいたことから誕生しました。地元の資源、地元石材店とのコラボレーション、そして、七宝焼を施して地元のまちづくりに貢献する。地元にちなんだ要素が掛け合わさった、ものづくりとまちづくりという新たな挑戦になりました。今後はクラフトフェアに出展して、七宝焼とともに地元のPRにも努めていきたいと思います。

これからも七宝焼の更なる可能性を信じて、異業種・異分野のコラボレーションによる新しいものづくりに挑戦していきたいと思いますので、お気軽にお声掛けいただければ幸いです。

モノがたりに参加した
立役者からのコメントComment

有限会社赤羽七宝舎 取締役 赤羽 洋一

会社経営のかたわら、“ものづくりの楽しさ”を広めるべく工芸ワークショップを行なっています。
私が社長に就任した頃は、七宝焼を普及させたい想いで七宝教室に努めてきましたが、今ではシルバーアクセサリー教室やキャンドル教室、時にはイベント出張教室など多岐に開催しています。さらに酒杯作りで培った鍛金の教室もできないかと、現在模索しているところです。
有料にはなりますが、親子や友人、カップルなど皆さんで当社へお越しいただき、ものづくりの楽しさをぜひ体験してみてください。

profile

・出身:長野県諏訪市
・小さい頃から初代社長である父の背中を見て育ち、自ずとものづくりに興味を持つ。大学卒業後は、取引先である名古屋市の七宝店で1年間修業を積み、その後帰郷。父とともに事業を展開。昭和63年10月、亡くなった父の後を継いで2代目社長に就任。
・トレッキングや40年来の弓道を楽しむほか、愛犬との毎朝のランニングに励む。
・(有)赤羽七宝舎ホームページ https://akahane-shippo.com/wp/

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「 総銀張七宝酒杯、『じぐじ石』アロマストーンペンダント 」はSUWAプレミアム公式サイトより購入可能です

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